2009年 08月 15日
一瞬の風になれ

『一瞬の風になれ』
佐藤多佳子
(講談社文庫)
第一部 イチニツイテ
第二部 ヨウイ
第三部 ドン
人生には大きく分けて
「どんなにおもしろくても
1ページたりとも
読み進められない時期」
と
「どんなに疲れていて
今は絶対寝たほうがいいと思っていても
読まずにいられない時期」
がある。
すげえ強引だけど(笑)
で、自分にとって今はその後者で、とにかく活字を追っている。
読んだところで心に残るのは一部で、あとはポロポロこぼれて気がつきゃ何も残ってなかったり
するんだから、すげえ無駄なことしてんのかも知れないけど、そうせずにいられない。
そんな中で、残ってるのがこの『一瞬の風になれ』3部作なわけ。
佐藤さんの作品を読むのは、『しゃべれどもしゃべれども』『黄色い目の魚』に続いて3作目。
ただ、「いい!」と思ってもそれを人に伝える力がない時期ってのもあって
あれだけぎゅうぎゅう吸収したはずの言葉たちはいったいどこに行っちゃったんだろうって
我ながらあきれてたんだけど、昨日観た『かもめ食堂』でちょっと力が戻ってきたのかな。
というような口調で、春高陸上部、神谷新二の目線で語られていくんだ。
だから「こういうの、おもしれえんじゃねえの?」って真似してみてるだけなんだけど(笑)
新二の兄、健一はJリーグにスカウトされちゃうようなサッカー選手。
新二の幼なじみ、一ノ瀬連は、中学から注目されてた天才スプリンター。
顧問と衝突して中2で部活を辞めてた連と、新二がひょん(←多いな(笑))なきっかけで
さして有名でない高校の陸上部に入り,、インターハイ出場を目指すチームに成長していく・・・
自分自身は、高校時代に部活に明け暮れた経験も、スパイク履いて100mをダッシュした事も
4継(ヨンケイ=400mリレー)のバトンリレーをした事もないくせに
この本読んでると、自分が高校生に戻ったような気分になるんだ。
高校時代って青春だったな~。部活マジメにやってなくても、確かに青春だった。
高校の卒業アルバム見てるとほんとそう思う。毎日一生懸命楽しかったもんな。
もっとも当時は人生最大に太っていた時期なので、青春時代の写真は誰にも見せられない。
新二はコツコツひたすら努力するタイプ。
まわりの人間のこともちゃんと見えていて、自分のレースだって冷静に分析できる。
自分なんてまだまだって卑下するところが欠点だけど、それがバネにもなってる。
一方、連は力があるのに注目される事が嫌い、目標にされるのも嫌い、練習も嫌い。
一生懸命やっていても、どうも力を抜いてるように見えてしまうタイプ。
それが新二の成長と共に素直になっていく。
他にも陸上部は個性的なメンバーがいっぱい。問題も起こすけど、いい奴ばかり。
プレッシャーに負けて自分の走りができなかった悔しさとか
すごく分かり合えてる奴が苦しんでる時に、一緒に苦しんでやれない苦しさとか
そういうのも、なんかいいのよ。
インターハイのイの字にも縁がなかった自分が、そこに一緒にいる。
(だけど、なぜかそこにいる自分は女子高生じゃなくて男目線なんだけどさ(苦笑))
2巻が特にいい。
最初に読んだ時に気づいたらポロポロ泣いてて、「あれ?泣いてる?」って自分でびっくりしたけど
2回目に読んでもやっぱりグッときた。
「俺さ、つまんねえのよ。おまえ、いねえと。」
「俺さ、おまえとかけっこしたくて、この部に入ったんだよ。」
こんなこと言ってくれる奴いる?
相手より速く走るのに、何の意味もない。
だけど、命まで懸けちゃって、足が動かなくなるまで走れる。
馬鹿。
そういうのがいい。
五感に訴える、こんなに気持ちのいい小説は久しぶり。
きっと走らない人にも気持よさは伝わると思うよ。
現実の部活は「風」なんて爽やかじゃなくて汗臭いもんかも知れないし(笑)
3部作はやっぱり長い。
けど!
読む時期(←こういうの自分だけ?)が来たら騙されたと思って読んでみて。
すげえいいから。
■
[PR]
by ungalmatsu
| 2009-08-15 22:41
| 本を読む