2008年 09月 10日
キッチン
「キッチン」
吉本ばなな
(新潮文庫)
その昔、鴻上尚史さんの『恋愛王』で紹介されていた一文がず~っと気になっていて、やっと初めてちゃんと読むことができました。初・ばなな。
この本には『キッチン』『満月―キッチン2』
『ムーンライト・シャドウ』の3作が収められていますが、
『ムーンライト~』はちょっと違うお話なのでおいときます。
物語のあらすじをここで改めて紹介する必要はないかな・・・
なるほど、ロング・ベストセラーなわけだ、と感心するよりは
メジャーなものを敢えて避けようとする、この性格を直さにゃイカン、と思いつつ(^^;
まず、えり子さんの人生観がすごい。
「人生は本当にいっぺん絶望しないと、そこで本当に捨てらんないのは
自分のどこなのかをわかんないと、本当に楽しいことがなにかわかんないうちに
大っきくなっちゃうと思うの。あたしは、よかったわ。」
そして、私が探していた言葉は、(当然だけど)物語の中で生きてくるのであって
そこだけが意味を持つものではないのだけれど・・・
「その人はその人を生きるようにできている。
幸福とは、自分が実はひとりだということを、なるべく感じなくていい人生だ。」
私が、みかげと雄一を「いいな」と思うのは
2人とも、自分がひとりだということを知っているのに、ひとりであることを認め合わないところ。
この世の誰よりも近くにいるのに、手をつながないところ。(物理的にではなく、です。)
そのあいまいな緊張関係に耐えているところ。
(鴻上・注 : ひとりであるということは、決して、ひとりでいるということではありません。)
私は、「誰にも私の気持ちなんてわからない」って思っていながら
一方では、誰かに理解して欲しくてたまらなくなることがあるから・・・
「キッチン」を読んだ事がない人に、ものすごく暗い小説だと誤解されそうだけど(苦笑)
みかげと雄一の間には笑顔があって、それがお互いを救っています。
そしてキッチン=食べもの。
遠くへ行こうとしている雄一に、カツ丼を注文した後にみかげが電話をかける場面が好き。
ひどくばかげているけれど、私はその時、今からカツ丼を食べるんだ!と自慢することが
なぜかできなかった。なんでだか、この上ない裏切りのように思えてならなくて、雄一の頭の中では一緒に飢えていてやりたかった。
そう、この感覚・・・すごくわかるんだなぁ。
そして、この後、実際にこのカツ丼が“なにか”をほんの数センチ押すことになります。
「そういえば朝から何も食べてなかったな。お腹すいたな」
読み終わったとき、そんな気分にしてくれた本でした。
ばななも食べんとな(^^;
by ungalmatsu
| 2008-09-10 00:05
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